防衛費は増額なのに「食の安全保障」は危機的状況  東京新聞

乳をしぼるほど赤字に…防衛費は増額なのに「食の安全保障」は危機的状況 離農急増「もう限界」

2023年3月30日 12時00分
 ロシアのウクライナ侵攻による飼料暴騰、需要減などで生産すればするほど損という状況に追い込まれている酪農家たち。先行きを悲観し全国で廃業が相次ぐ中、緊急の対策を求めて29日、国に電子署名8万人分を提出した。安全保障上の危機を理由にいきなり防衛費を増額させる岸田文雄政権だが、農家らからは「食の安全保障にも危機感を持て」と怒りの声が上がる。(木原育子、宮畑譲)

◆緊急対策求め 国に電子署名8万人分提出

農水省の担当者に酪農家の窮状を訴える農民連の長谷川会長(奥左から2人目)=29日、東京都千代田区の衆議院第2議員会館で

農水省の担当者に酪農家の窮状を訴える農民連の長谷川会長(奥左から2人目)=29日、東京都千代田区の衆議院第2議員会館で

 29日、衆議院第2議員会館(東京都千代田区)の一室。農家や酪農家らでつくる「農民運動全国連合会」(東京)の長谷川敏郎会長が深刻な表情で現れた。「一刻の猶予も許されない」と告げ、「酪農・畜産危機を打開し地域農業を守るための緊急要請」と書かれた文書を、農林水産省牛乳乳製品課の叶拓斗課長補佐らに手渡した。
 農民連が要望したのは5項目だ。酪農家の廃業や倒産を避けるため搾乳牛1頭あたり10万円の支援や、乳価の引き上げ策など。叶課長補佐は、「酪農は特に厳しい状況にあると認識している」と受け取った。
 だが、その後の要請行動は紛糾。前日の28日に農水省は搾乳牛1頭あたり1万円の支給などを決定した。長谷川会長は「10万円必要だと言っているのに、1万円で我慢しろでは続けられない」と訴え、笹渡義夫副会長も「農水省は危機感が足らないというのが率直な感想だ」と続いた。
金谷さんの牧場では毎日朝と晩、30頭に搾乳器を付けて生乳を搾乳しているという=金谷さん提供

金谷さんの牧場では毎日朝と晩、30頭に搾乳器を付けて生乳を搾乳しているという=金谷さん提供

 農民連が懸念するのは、中央酪農会議が今月発表した調査で、離農を検討している酪農家が6割に上ったことだ。会場に訪れた千葉の酪農家金谷雅史さん(39)は「乳牛をしぼればしぼるほど赤字になるからだ」と6割にうなずきながら、「全く希望が持てない」と訴えた。
 金谷さん宅は30頭ほどの牛がいる。朝5時から搾乳し、その後はトラクターに乗ってトウモロコシなどの餌作り。帰宅は午後9時を過ぎる。「働くことに何の意味があるのかと思ってしまう」と話す。
 要請行動でも思いを届けた。「机の上で数字をはじくのではなく、しっかり現場の声を聞いてもらいたい」と金谷さんが訴えると、会場からは「そうだ!」と声が上がった。
 農民連が農水省に手渡した文書には、酪農家からの切実な声も掲載された。「先週廃業した。地獄のように悩み、苦しみながら決断した。家族の一員だった牛たちと死に別れないといけない思いがわかるか」「酪農経営の良さがすべてなくなってしまった」ー
 大規模農場が多い北海道ではさらに切実だ。500頭を育てる士幌町の川口太一さん(59)は「身を削って何とか持ちこたえているが、もう限界。出血を止められないまま輸血している状況だ。命がもたない」と語り、「酪農業界は生産者とメーカー、国の関係がかなりいびつ。3者のパワーバランスを崩さない限り、抜本的改善はなされない」と見通す。

 千葉県睦沢町の中村種良さん(71)は「こんなに厳しい時代はかつてなかった」と語る。「酪農は餌代を含め、経費が他の産業に比べて多くかかるのが特徴。

せめて輸入を止めてくれれば、乳価は高くなり、助かる酪農家は多いだろう。農水省はどっちの味方なのか…」とため息しかなかった。

 声を上げているのは酪農家だけではない。農民連が電子署名活動を実施すると、わずか1カ月で8万1000件超の署名が集まった。事務局次長の満川暁代さん(51)は「1カ月でこんなに集まるとは関心の高さをうかがわせた。結束の輪を広げたい」と語る。

◆ウクライナ危機や円安 配合飼料が値上がり

 酪農家が追い詰められている様子はデータからも読み取れる。
 3月に中央酪農会議が実施した調査では、157人の酪農家のうち85%近くが赤字経営だと答えた。さらに、そのうち4割以上が月に100万円以上赤字だったという。中には1億円以上の借金があると答えた人もいた。離農を検討している酪農家が6割近くに上るのもこうした状況があるからだ。実際、同会議の指定団体が生乳を受託した酪農家の戸数は今年1月時点で、全国で前年比6.8%減、都府県では同比8.4%減っている。
 同会議の担当者は「酪農家の数はずっと減る傾向にあるが、例年は4%程度。昨年夏ごろから離農する酪農家が急激に増えている」と話す。
 経営不振の大きな理由は、ウクライナ危機や円安による影響で、トウモロコシを主原料とする配合飼料が値上がりしたことがある。
 農水省の「飼料月報」によると、今年1月の配合飼料用トウモロコシの工場渡し価格は1トンあたり9万4600円。前年同月の7万9700円から18.7%値上がりしている。2021年1月は6万8500円で、2年前と比べると、4割近く高騰したことになる。
 円安で機械を動かすための燃料費も上がっている。さらにコロナ禍で、学校給食や外食などの需要が減り、牛乳は供給過剰な状態が続いている。乳業会社が買い取る飲用乳価は昨年11月、約3年半ぶりに1キロあたり10円引き上げられたが、価格が上昇すると消費が低迷する可能性もある。
 こうした状況を受け、政府も28日、飼料価格高騰の対策として、予備費から965億円の支出を決めた。生産コストの上昇に対する補填ほてん金を増額し、4月以降は飼料高騰が続いても負担を抑える特例措置を導入する。
 しかし、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「1960年代以降畜産を振興したが、草地開発よりも海外産トウモロコシが安上がりだったため、酪農は輸入飼料依存型になった。飼料価格が上がったから政府が補填して価格を下げるといった対症療法ではなく、根本的な対策を考えなくてはいけない」と指摘する。
 牛は牧草よりも穀物飼料を与えたほうが早く成長し、乳量も増える。ただ、山下氏は「本来、牛は草を食べる動物。放牧して草を飼料として肥育すれば、飼料高騰の影響を受けないし、ふん尿も肥料となる。輸入飼料に依存していては、価格変動に影響を受けるのは当然で、食料安全保障上も問題がある」と強調する。
食料自給率(カロリーベース)の推移

食料自給率(カロリーベース)の推移

 岸田文雄首相は昨年、戦後の安全保障政策を大きく転換する安全保障に関わる3文書の改定を行い、防衛費の増額を打ち出した。その一方で、日本の食料自給率はカロリーベースで38%にとどまる。これでは、自衛隊の装備が充実しても、有事の際に食料関連の輸出を止める「兵糧攻め」に遭えば、国民は簡単に飢えてしまうのではないか。
 「飼料を海外に依存している限り、同じような事態はまた起きる。牛乳一つとっても危機的な状況になっている。自分の命をつなぐためにも、国内の農業を大切にすることを認識しなくてはいけない」。東京大の鈴木宣弘教授(農業経済学)はこう警鐘を鳴らす。
 鈴木氏も急に食料自給率を上げるのは簡単ではないとの認識だが、消費者が農家を支えることはできると訴える。「酪農家にとっては危機だが、大きな転機とも言える。消費者が国内で有機農法、循環型農法などを行う農家とつながり、ネットワークをつくる必要性は高まっている」

◆デスクメモ

 このまま酪農家が廃業していったら、国内産の牛乳や乳製品は供給不足になるかもしれない。政府は「それは輸入でまかなえばいい」と思っているのか。でも、今回の飼料同様、そのとき十分に輸入できる保証はない。今でも危うい食の安全保障。ミサイルよりも先に考えるべきでは。(歩)

関連キーワード

「ミサイル基地NO!」「石垣島を戦場にするな」

説明会参加者
「相手の基地まで飛ぶような長距離ミサイルを配備するなら、私はこれは自衛隊に賛成する人でも、反対する人でも、このことについて容認できない」

実際、政府はこの「12式地対艦誘導弾」を改良して「反撃能力」に用いることを想定。射程を伸ばした「能力向上型」の開発を進めています。射程は現在の百数十キロから1000キロ以上に伸びるとされ、仮に石垣島に配備されれば、中国本土も射程に入ります。

ただ、防衛省はこの能力向上型を石垣島に配備するのか明言を避けています。

「国民に金だけ出せなんて…」敵基地攻撃の具体例説明しない政府

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「国民に金だけ出せなんて…」敵基地攻撃の具体例説明しない政府 攻撃なくても相手国にミサイル

2023年3月29日 06時00分
 他国を武力で守る集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法が施行され、29日で7年。岸田政権はさらに踏み込み、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決め、集団的自衛権の行使で使うことがあり得ると明言している。だが、どんな場面を想定しているのか、行使の具体例を示すよう求められても説明を拒否し、分からないまま。識者は「政府に運用を白紙委任するのではなく、国会で基準を議論すべきだ」と指摘する。(川田篤志)

◆ミサイルの取得費含む2023年度予算成立

 「具体例は言わないのに、国民に金だけ出せなんて認められない」。28日の参院予算委員会で、立憲民主党の辻元清美氏は集団的自衛権の行使で敵基地を攻撃する具体例を説明しないまま、長射程ミサイルの取得費を盛り込んだ2023年度予算を成立させる岸田政権の姿勢を批判した。
 安保法を制定したのは安倍政権。歴代政権が違憲としてきた集団的自衛権の行使を認め、他国への武力攻撃で日本の存立が脅かされる「存立危機事態」を定義し、要件を満たせば行使できるようにした。
 だが、武力行使の範囲は主に公海上までが前提の議論だった。岸田政権は、相手国の領域にトマホークなどの長射程ミサイルを撃ち込むことも排除しない考えを示している。
 立民の岡田克也幹事長は1月の国会審議で「日本が攻撃を受けていないのに、相手国本土にミサイルを撃つのは専守防衛の一線を越えている」と指摘し、具体例の提示を要求。岸田文雄首相は「分かりやすく図式などで説明することはあり得る」「調整を進めている」と応じる考えを示したが、2月末には「安全保障上、具体例を示すのは適切ではない」と態度を一転させ、説明を拒んだ。

◆識者「歯止めとなる基準を具体化する議論を」

 安保法を巡っては、安倍政権が集団的自衛権行使の事例として(1)日本周辺の公海で警戒監視中に攻撃を受けた米艦の防護(2)武力紛争が起きた近隣国から避難する邦人輸送中の米艦の防護(3)グアムやハワイの米軍基地を狙った弾道ミサイルの迎撃—などを挙げた。戦後の安保政策を大転換する重大な局面で、国民への説明責任が求められたためだ。各事例の妥当性について国会で激論が交わされた。
 一方、敵基地攻撃能力の保有は立法化もなく、岸田政権が昨年12月に閣議決定した。明らかに説明不足で、岡田氏は「安倍政権の下で議論したときのような具体例を示してもらいたい」と主張する。
 浜田靖一防衛相は24日の記者会見でも、集団的自衛権行使の具体例提示は「困難だ」と繰り返した。防衛省幹部は「安保法のときは概念的に理解を深めてもらう目的で事例を示したが、今回はもろに運用に関わるため、手の内を明かしたくない」と漏らす。
 柳沢協二・元内閣官房副長官補は本紙の取材に、存立危機事態の要件が「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」などと曖昧で「その上に敵基地攻撃の議論が加わり、さらに分かりづらくなっている」と指摘。台湾を巡る米中の緊張が高まる中で「不必要な戦争に巻き込まれないよう、歯止めとなる基準を具体化する議論をするべきだ」と提案する。

<オスプレイ 配備の先に>「基地建設は自然破壊」佐賀市川副町で計画反対決起集会

合唱してオスプレイ配備計画反対を訴えた決起集会=佐賀市川副町のスポーツパーク川副体育センター

「オスプレイ来るな!」と書かれたパネルを掲げる地元住民たち=佐賀市のスポーツパーク川副体育センター

佐賀空港への自衛隊輸送機オスプレイ配備計画に反対する決起集会が26日、佐賀市のスポーツパーク川副体育センターで開かれた。漁業者や住民ら約500人(主催者発表)が参加し、「オスプレイ来るな!」と書かれたパネルを掲げて配備阻止を訴えた。

地権者の1人で、主催したオスプレイ反対住民の会の古賀初次会長(74)はノリや貝などの深刻な不作に触れ、「有明海は疲れ果てている。軍事基地を造るのは自然破壊だ」と批判した。駐屯地候補地について防衛省は今月中旬、2年前に提示した買収額の4割増の1平方メートル当たり6031円を文書で地権者に通知し、戸別訪問を始めている。古賀会長は「防衛省の甘い言葉にだまされんよう地権者に声をかけていく」と団結して反対する考えを示した。

漁業者や野党国会議員らが計画反対への思いや考えを主張した。山口県から訪れた盛重耕二さんは、米軍岩国基地(岩国市)に8年前に空中給油機が配備されて「騒音が増大し、周辺住民の生活環境が悪化した」と報告。「一度駐屯地ができ、そこに米軍が来たら際限なく基地は強化される。国は制限できない」と強調した。(草野杏実)

ウクライナ軍事侵攻から1周年 千葉駅でプーチンもNATOも戦争をやめろ!の街宣を行いました。

沖縄を戦場にすることに断固反対する 沖縄・元全学徒の会が声明

 「台湾有事」を既成事実にして南西諸島一帯の軍事強化が進む中、かつて沖縄戦に動員された沖縄県内21校の旧制師範学校・中等学校の元学徒らでつくる「元全学徒の会」は12日、「沖縄を戦場にすることに断固反対する声明」を発表した。声明では「再び戦争が迫りくる恐怖と強い危機感を覚え」るとのべ、戦争の残虐さを身をもって体験した者として「平和が一番大切だという沖縄戦の教訓を守ってもらいたい」と訴えている。以下、声明の全文を紹介する。

長周新聞

沖縄県糸満市摩文仁平和祈念公園内に建立された全学徒隊の碑(2017年)

沖縄を戦場にすることに断固反対する声明

今、ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、沖縄を含む南西諸島で自衛隊の増強が進められる状況に、再び戦争が迫りくる恐怖と強い危機感を覚え、むごい沖縄戦を思い出す。

78年前の沖縄戦では、米軍の上陸に備え、県民は子どもから大人まで、日本軍の飛行場設営や陣地構築に動員された。正義の戦争だと教え込まれ、知らないうちに戦争の加害者となり、戦争に加担させられた。日本政府は今、日米安全保障条約の下で「中国脅威論」を盾に軍備増強を進めている。自衛隊と米軍の一体化がさらに進む中、国民の緊迫の度を高め、自ら戦争を引き起こそうとしているような状況と戦前が重なる。軍拡ばかりが前面に押し出され、住民の被害に対する思いは微塵もない。

沖縄戦で戦場にかり出された県内21校の旧師範学校・中等学校の男子学徒と女子学徒は、戦争がいかに残虐なものかを、身をもって体験した。死の迫る極限状況の中、生き残った元学徒も学友や家族、親しい人々を失い、心に深い悲しみを負った。全学徒の死者は約2千人。戦後は戦没学徒の慰霊を続け、二度と沖縄を戦場にしてはならないという思いで、教え込まれた皇民化教育の過ちと悲惨な戦争の実相を語り継いできた。

戦争する国は美しい大義名分を掲げるが、戦争には悪しかない。爆弾で人間の命を奪うだけである。戦争は始まってしまったら手がつけられない。犠牲になるのは一般の人々だ。大勢の人の命が奪われ、双方の国に大きな被害を出す。戦争はしてはならない。命を何よりも大切にすること、平和が一番大切だという沖縄戦の教訓を守ってもらいたい。

先の大戦では、若い学徒を含め310万人の日本人が犠牲になり、アジア全体での軍民の犠牲者は2千万人を超えるとされる。日本は侵略した国の人々を虐げ、収奪し、命を奪った。今、日本政府がすべきことは、侵略戦争への反省と教訓を踏まえ、非戦の日本国憲法を前面に、近隣の国々や地域と直接対話し、外交で平和を築く努力である。戦争を回避する方策をとることであり、いかに戦争するかの準備ではない。しかし、今の政府は戦争をするきっかけを見つけ出し、戦争にまい進しようとしていることが強く危惧される。

戦前に戻るかのような政府の動きを元学徒として見過ごすことはできない。県民の間で第三二軍司令部壕の保存・公開を訴え、「平和の砦」にしようという運動がある中、沖縄の陸上自衛隊第一五旅団を師団に格上げし、沖縄本島や先島諸島の駐屯地司令部の地下化を計画することは、県民の平和志向に反するものである。元全学徒の会は、日本政府による沖縄へのミサイル配備をはじめとする自衛隊増強と軍事要塞化で、再び沖縄を戦場にすることに断固反対する。

2023年1月      元全学徒の会

 

沖縄師範学校男子部、沖縄県立第一中学校、沖縄県立第二中学校、沖縄県立第三中学校、沖縄県立農林学校、沖縄県立水産学校、沖縄県立工業学校、那覇市立商工学校、学校法人開南中学校、沖縄県立宮古中学校、沖縄県立八重山中学校、沖縄県立八重山農学校、沖縄師範学校女子部、沖縄県立第一高等女学校、沖縄県立第二高等女学校、沖縄県立第三高等女学校、沖縄県立首里高等女学校、沖縄積徳高等女学校、昭和高等女学校、沖縄県立宮古高等女学校、沖縄県立八重山高等女学校

共同代表 與座章健、瀬名波栄喜、中山きく、吉川初枝
幹事 宮城政三郎、山田芳男、太田幸子

(東京新聞) 台湾有事 民間の被害避けられないのに触れない米有力シンクタンクの机上演習

 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が公表した台湾防衛の机上演習。双方に多大な犠牲が生じる衝撃のシミュレーションだが、米軍基地周辺などで当然予想される住民の死傷者には触れていない。沖縄県に離島防衛の「海兵沿岸連隊(MLR)」を置く計画には、軍民一体の戦闘でおびただしい命を失った県民が憤る。民間人の被害を避けられない戦争を、国民は甘受できるのか。(岸本拓也、中沢佳子)


◆成功しても日米で何千人もの軍人死亡

 米軍の元幹部や軍事専門家らによるCSISの机上演習は、2026年に中国軍が台湾に侵攻したことを想定して行われた。米軍や日本の関与度合いなどに応じて計24通りのシナリオを用意。ほとんどの場合で、中国の台湾制圧が「失敗する」と結論づけた。
 最も可能性が高いとされる基本シナリオでは、中国軍の死傷者は2万2000人に上り、3万人以上が捕虜となると指摘する。一方で、台湾防衛に成功しても「日米両国は、何十隻もの艦船、何百機もの航空機、そして何千人もの軍人を失う」と、双方に甚大な被害が出ることを予想している。
 具体的には、米軍は2隻の原子力空母と最大20隻の艦船が撃沈され、最大372機の航空機を失い、最大1万人の死傷者が出る。在日米軍や自衛隊の基地が攻撃された際に参戦する想定の自衛隊も、112機の航空機と26隻の艦船を失うとした。

◆日米首脳会談直前の発表 米中対決に組み込む意図?

 分析の特徴は、日本を台湾防衛の「要」と位置付けていること。台湾が単独で応戦した場合や、日本が中立を保って在日米軍基地の使用を認めない場合は、台湾防衛に失敗するとした。日米政界に影響力を持つCSISの報告書が発表された9日は、13日の日米首脳会談の直前。日本を対中対決に組み込む意図が働いているのでは、との見方も出ている。
13日、米ワシントンのホワイトハウスで、バイデン大統領(右)の歓迎を受ける岸田首相=AP

13日、米ワシントンのホワイトハウスで、バイデン大統領(右)の歓迎を受ける岸田首相=AP

 報告書は「日本国内の基地を戦闘に使用する必要がある」と説き、台湾に近い嘉手納(沖縄県)をはじめ、岩国(山口県)、横田(東京都福生市など)、三沢(青森県)の各航空基地に言及した。
 さらに「日本の航空機の大半が地上で失われる」として、沖縄や本土の在日米軍基地が中国軍からミサイル攻撃を受けると想定。日本の民間空港を軍が使用し、戦闘機がミサイル攻撃を受けるリスクを「分散化」する効果を強調する。「地元の政治的な反対で妨げられるかもしれないが、大きな見返りがあり、強力な取り組みが必要だ」とした。
 「分散化」が意味するのは、米軍や自衛隊の基地のみならず、民間空港も攻撃の対象となるということだ。しかし、基地や民間空港の従業員や周辺住民といった民間の被害についてはほぼ言及していない。

◆全面戦争や核使用リスクの分析なし

そもそも今回の分析は、台湾有事勃発から1カ月ほどを想定したものに過ぎない。長期化し、核兵器の使用や原発への攻撃、他国の参戦など、事態がエスカレートしていくリスクは分析していない。

◆軍事的対立を避ける外交戦略もなし 沖縄が再び「消耗品」に

 CSIS報告書の公表から間もない11日、日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で、MLR創設が掲げられた。南西諸島防衛を見据え、沖縄県に駐留する米海兵隊を改編。対艦ミサイルなどを備え、機動的に動く部隊という。有事の際の空港や港湾の柔軟な使用、米軍嘉手納弾薬庫地区(沖縄県)で火薬庫を共同で使う方針も唱えた。
 一方、日本は宮古島(同)に地対艦ミサイル部隊の配備を進めている。敵基地攻撃能力(反撃能力)として米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を購入し、2026年度中の配備も計画する。

 「日本の防衛政策が国会で議論されず、2プラス2で決められるのもおかしい。軍事的対立を避ける外交戦略もない。一体、誰を何から守るためのものなのか」。米国の戦略に呼応するかのような動きに、沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)は危機感を募らせる。

 軍事拠点は攻撃される危険をはらむ。多数の民間人を巻き込んだ、太平洋戦争の沖縄戦が再現されかねないと前泊氏は危ぶむ。「沖縄が再び『消耗品』にされる。なぜ沖縄が戦場になる前提で進むのか。それに、有事となれば、沖縄県民だけが死ぬわけじゃない。国民みんなが当事者意識を持たなくては」

◆標的になる恐れは首都圏にも

 確かに、標的になりかねないのは首都圏も同じ。CSISの報告書には、台湾有事に横田基地などから参戦する想定もある。2プラス2では、横浜市の米軍の輸送拠点「横浜ノースドック」に、小型揚陸艇部隊を配備することも発表。NPO法人「ピースデポ」の湯浅一郎代表は「ノースドックは市街地に近く、攻撃されれば市民に甚大な被害が出る」と指摘する。
 湯浅氏は、米軍の戦争を支えるのが横須賀基地(神奈川県横須賀市)に配備した原子力空母を核とする空母打撃群や、佐世保基地(長崎県)の強襲揚陸艦、岩国基地の空母艦載機、そして沖縄の海兵隊だと説明。「横浜の部隊は佐世保と連動し、小回りの利く部隊として物資や人員を運ぶだろう」とみる。
 軍事力がもたらすのは安全ではなく戦争。それが湯浅氏の考えだ。「軍事力で安全を保障する考え方では、国民を守れない。軍事的緊張を高め、軍拡競争になり、戦争を引き寄せる」

◆軍事力より外交力で戦争回避を

周囲を市街地に囲まれた横田基地=2018年、本社ヘリ「おおづる」から=東京都で

周囲を市街地に囲まれた横田基地=2018年、本社ヘリ「おおづる」から=東京都で

 台湾有事となれば、米軍は在日米軍基地から出撃し、反撃を受ければ民間人も被害に遭う。昨年11月、外交の多様化を図る民間シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」は「戦争を回避せよ」との政策提言をまとめた。「抑止力強化一辺倒の政策で戦争を防ぎ、国民を守ることができるのか」と問いかけ、軍事力より外交力で戦争を回避するよう説いた。
 日中外交が決定的に足りず「首脳外交や危機管理はもちろん、各省庁の全分野が持つパイプを強化し、恒常的に対話の場を持つことが必要だ」と促す。
 米軍の在日米軍基地使用には、日本との事前協議が必要との日米合意がある。猿田氏は対米外交に必要な視点をこう訴える。「有事の在日米軍基地からの出撃も、日本が必ずしも受け入れるわけではないと伝えるべきだ。国民保護のためには、米国にも言うべきことは言わねばならない」

中国への戦争を狙い、台湾・沖縄・日本全土を戦場にする軍事予算の2倍化=12兆円に反対!

核戦争を止めよう!

ウクライナ戦争が核戦争として激化しています。10月にはNATO、ロシア双方が核軍事演習を実施しました。アメリカのバイデン政権は、ロシアの弱体化を狙い、大量の武器を送り続け(軍事支援総額は2兆6千億円超!)、ウクライナ戦争を激化・長期化させています。岸田政権も、日米安保の戦争同盟への強化と改憲・大軍拡に突きすすんでいます。

「専守防衛」をかなぐり捨て
「敵基地攻撃能力保有」

 岸田政権は「防衛費2倍化」を掲げ、12月には国家安全保障戦略など安保3文書を改定し、「専守防衛」の建前は完全に取っ払い、「敵基地攻撃能力保有」を明記しようとしています。すでに中国本土に届く長射程ミサイル1000発配備、米軍の巡航ミサイル「トマホーク」の購入などの計画を進めています。
南西諸島にはミサイル部隊を配備して軍事拠点化するとともに、対中国の作戦計画に基づく米軍・自衛隊による実戦訓練も繰り返しています。木更津に配備されている自衛隊オスプレイも出動しています。

戦時下の大インフレ-物価高、貧困拡大の中、医療・福祉は破壊しながら、一握りの支配者の利益のために戦争予算は拡大する。ふざけるな! 戦争反対、大軍拡反対の怒りの声で国会を包囲しよう。

【自衛隊・米軍が南西諸島で大規模軍事演習(11月)】

 南西諸島を中心に11月10~19日、自衛隊2万6千人、米軍1万人を動員した大規模な日米共同統合演習『キーン・ソード23』が実施される。米海兵隊の対中国作戦「遠征前進基地作戦(EABO)」に基づいて、陸自の地対艦ミサイルと米軍のロケット砲「ハイマース」の展開訓練、日米オスプレイの共同訓練、実弾射撃訓練を実施。さらに民間の中城湾港を使用した部隊・装備の輸送、与那国町では陸自の最新鋭の戦闘車両MCVが公道を走行する。南西諸島を丸ごと軍事拠点にしながら中国への戦争を狙う恐るべき実戦訓練だ。
日米合同統合演習「キーンソード23」。南西諸島を中心に、民間港湾、民間空港、一般公道を使用する訓練。
銃火器搭載の戦闘車が「ぶっつけ本番でなく想定地での実走経験が必要」との事。即ち、沖縄が戦場になる事を想定した訓練。こんな訓練を絶対に許してはなりません。

<社説>キーン・ソード23 有事想定は認められない

自衛隊と米軍による日米共同統合演習「キーン・ソード23」が10日から本格的に始まる。特に沖縄を含む南西諸島では島しょ作戦を織り込んだ大規模訓練が計画される。

77年前の沖縄戦で4人に1人が犠牲になった。「軍隊は住民を守らない」というのが沖縄戦の教訓だ。沖縄での有事を想定した訓練は認められない。強く抗議する。
防衛省によると、キーン・ソードは、ほぼ2年に1度、国内各地の自衛隊や在日米軍施設で実施する日米最大規模の実動演習である。今回は自衛隊約2万6千人、米軍約1万人を動員し、英軍の艦艇やオーストラリア軍、カナダ軍の艦艇、航空機も加わる。中国を意識し、南西諸島を中心に運用能力の向上を図る。
演習全体としては、グレーゾーンから武力攻撃事態に発展するまでを想定し、弾道ミサイル発射への対処や宇宙、サイバー、電磁波領域での作戦も訓練する。米軍からは宇宙軍も参加する。
今回の訓練は実戦に即した最新鋭の16式機動戦闘車(MCV)を与那国町の公道で使用する計画だ。台湾に近い与那国島で日米が軍事演習を活発化させれば、米中対立の火種となる台湾情勢を刺激することになるだろう
防衛省関係者は「有事になった時に通ったことがない道を通る『ぶっつけ本番』では戦いにならない。飛行場から駐屯地まで実際に自走することに意味がある」と語り、与那国での訓練の目的を説明している。与那国での戦闘を想定しているかのような訓練は認められない。
県内にある自衛隊、米軍の各施設に加え、8日にはチャーターした民間船舶(PFI船)で、民間の中城湾港に車両などの装備品と隊員らを運び込んだ。県内に運ばれた車両は、国道58号など一般道を使い、陸自那覇駐屯地などへ移動する様子が確認された。
1945年1月、大本営は沖縄を日本防衛のための「前縁」と位置付け「極力敵ノ出血消耗ヲ図」る方針を決定した。沖縄戦は「本土決戦」に備えるための時間稼ぎだった。沖縄戦の教訓から県民は「人間の安全保障」を要求してきた。だが、日本は米軍との軍事一体化を強化し、尖閣や台湾有事を想定して自衛隊を南西諸島に重点配備している。台湾有事を想定して南西諸島に米軍の軍事拠点を設ける日米の新たな共同作戦計画が策定中だという。
自国が攻撃されなくても戦争に参加する集団的自衛権を、安全保障関連法に基づき行使し自衛隊が後方支援などを行えば、必然的に自衛隊基地も攻撃対象となる。
 敵基地攻撃能力の保有を検討し防衛費大幅増額など、戦争に向けての地ならしが進んでいる。キーン・ソードは日米軍事一体化の訓練といえる。過去の大本営方針のように、沖縄が最前線(前縁)となり再び戦争に巻き込まれることは断じて認められない。

「台湾有事」ー対中国戦争の軍事演習が11月10日から始まる。木更津の自衛隊オスプレイも出動

南西防衛へ民間輸送力3倍に増強 政府検討、台湾情勢に備え

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南西諸島での主な自衛隊配備

徳之島などで11月10日から日米共同訓練 オーストラリア、カナダ、英軍も参加 奄美大島にはハイマース展開

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南日本新聞

米軍の高機動ロケット砲システム「ハイマース」=8月、奄美市名瀬

他国から「武力攻撃」想定、離島住民の本土避難 屋久島町と鹿児島県、1月に図上訓練 23年度には実動訓練も予定

 2022/10/20 11:13

鹿児島県は19日までに、他国からの武力攻撃を想定して離島住民を本土に避難させる図上訓練を来年1月、屋久島町と共同で実施すると明らかにした。国民保護法に基づく訓練で、2023年度には同町民の県外避難も含めた実動訓練を予定している。県は「訓練で国民保護の具体的な動きを確認し、課題を洗い出したい」としている。

訓練は国主導で行われ、国や県、屋久島町、警察、消防、自衛隊など関係機関の相互連携強化を図る目的。県はテロへの対応を確認する国民保護訓練を国と過去5回しているが、武力攻撃を想定した訓練は初めて

屋久島町を選定したことに県危機管理課は「内閣府から離島避難をテーマにしたいと打診があったため」と説明している。

国民保護法に基づき、都道府県や市町村は武力攻撃から住民を守る措置を取る義務を負い、避難や訓練実施、備蓄などの国民保護計画を策定している。

「住民の暮らしなど眼中にないようだ」

オスプレイ、後部ハッチ開けて飛行 沖縄・普天間周辺 離着陸も

沖縄タイムス 10・8

2022年10月8日 08:51

後部ハッチ開けて飛行 普天間周辺 オスプレイ、離着陸も | 沖縄タイムス紙面掲載記事 | 沖縄タイムス+プラス
沖縄県の米軍普天間飛行場周辺で6日夕、MV22オスプレイが機体の後部ハッチを開けた状態で飛行しているのを名護市の写真家、山本英夫さん(71)が撮影した。 オスプレイが宜野湾市内の住宅地に金属製の水筒を落とした昨年11月の事故を受け、米側は後部ハッチやドアを閉じて飛ぶことを義務付けるとしていた。 山本さんは、後部ハッチを開けたまま飛行し離着陸するのを延べ3回確認したといい「住民が存在し、暮らしていることなど眼中にないようだ」と批判した。 普天間飛行場周辺では9月15日にも、米軍ヘリ2機がドアやハッチを開けた状態で飛行しているのが確認されている。

(中部報道部・平島夏実)

陸上自衛隊が県内初のオスプレイ使った訓練 報道陣に公開

県内で初めて行われた陸上自衛隊の輸送機、オスプレイを使った訓練の様子が6日、報道関係者に公開されました。
陸上自衛隊は離島での防衛能力の向上を目的に、今月2日から九州・沖縄各県の演習場などで、およそ5000人が参加する大規模な訓練を行っています。
このうち大分県の十文字原演習場では、オスプレイを使った訓練の様子が報道関係者に公開されました。
訓練に参加したオスプレイは、ふだんは千葉県木更津市にある陸上自衛隊の木更津駐屯地に暫定配備されているもので、熊本県益城町にある高遊原分屯地から午後4時ごろ、独特の鈍い音を響かせながら十文字原演習場に着陸しました。

6日の訓練で、オスプレイは負傷した自衛隊員を搬送するために使われ、小銃を持った隊員が辺りを警戒する中、負傷した隊員を乗せて再び高遊原分屯地に向かいました。
県内で行われる陸上自衛隊の訓練でオスプレイが使われたのは、今回が初めてです。
陸上自衛隊は「オスプレイの飛行地域の拡大を進めていく中で、訓練を通じて運用能力の向上を図っていきたい」としています。
オスプレイは7日も訓練に参加し、十文字原演習場で離着陸の訓練を行うということです。

爆音とともに現れたオスプレイ 北海道での訓練、地元で反対の声も

  • 写真・図版 北海道内で行われている陸上自衛隊米海兵隊の共同訓練「レゾリュート・ドラゴン22」で、米軍輸送機オスプレイを使った訓練が6日、然別演習場(鹿追町)で報道公開された。訓練を通じて日米の連携をより深めたい陸自だが、安全性が懸念されるオスプレイの参加もあり、地元では反対の声も上がる。

午後1時過ぎ、大きな音が近づいてきたかと思うと突然、林の上にオスプレイ「CV22」が現れた。機体が地面に近づくと、突風に巻き込まれたかのように小石や砂が飛んできた。

陸上自衛隊のオスプレイ訓練公開 演習場周辺で抗議行動も 大分

2022年10月6日(木) 18:31

分県別府市の十文字原演習場に飛来したオスプレイ。陸上自衛隊が大分県内で初めて実施するオスプレイの訓練が公開されました。
2日から始まった陸上自衛隊の鎮西演習は隊員およそ5000人が参加する西部方面隊の最大規模の訓練で、大分県内で初めて自衛隊のオスプレイが使用されています。
6日は別府市の十文字原演習場でオスプレイで患者を輸送する訓練が報道関係者に公開されました。
(オスプレイを見た人)「初めて見ました。安全に飛んでくれればいいと思う」「僕としてはよいのではないかと思う。防衛のためには良い面で利用出来たら良い」
訓練では熊本県の高遊原分屯地からオスプレイが飛び立ち、およそ100キロ離れた別府市の十文字原演習場におよそ35分で着陸。前線でけがをした隊員や治療にあたる衛生隊を機体に乗せて病院に搬送するまでの手順を確認しました。
一方、演習場付近ではオスプレイの安全性に懸念が残るとして抗議行動をする人たちの姿も見られました。自衛隊は2020年にオスプレイを配備してからこれまでに事故はなく、安全性を確保した上で運用していると説明しています。6日は日出生台演習場でもオスプレイによる偵察訓練が実施され、7日も十文字原演習場で離着陸訓練が予定されています。

10月8日 千葉駅そごう側でオスプレイ反対街宣

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