断層上にある志賀原発は「次の地震」に耐えられるか 能登半島地震で高まった巨大地震発生リスク

2024年2月3日 12時00分
 マグニチュード(M)7.6を記録し、200人余が犠牲となった能登半島地震。発生から1カ月たつ中、拭い去れない危惧がある。次なる地震だ。先月、半島北側の断層が大きく動いた影響で、周辺の断層も動く可能性があると指摘されている。懸念が強まるのが北陸電力志賀原発(石川県志賀町)。立地する半島西側は活断層が少なからず存在する。現状にどう向き合うべきか。(岸本拓也、山田祐一郎)

◆震度5強以上の発生確率「平常時の60倍」

北陸電力志賀原発=1月2日、本社ヘリ「わかづる」から

北陸電力志賀原発=1月2日、本社ヘリ「わかづる」から

 「いずれ志賀原発の近くでも大きな地震が来るんじゃないか」
 能登半島の東端に位置し、先月の地震で甚大な被害が生じた珠洲市の元市議、北野進氏はそう語る。
 この3年ほど、能登半島は群発地震が活発化した。地震の規模が少しずつ大きくなっていたところに今回の大地震に見舞われた。そんな経緯がある中、志賀原発差し止め訴訟の原告団長も務める北野氏は「次の地震」に気をもむ。
 先の地震から1カ月を過ぎ、余震の数は減った。ただ気象庁は1月末に「今後2〜3週間程度、最大震度5強程度以上の地震に注意を」と呼びかけ、その発生確率は「平常時の60倍程度」と付け加えた。

◆周囲100キロ以内で「地震活動は活発に」

 研究者らも懸念を示す。
 先の地震は能登半島の北側で東西約150キロにわたって断層が活動したとされる。東北大の遠田晋次教授(地震地質学)が周辺の断層に与えた影響を計算したところ、今回動いたエリアの両脇、具体的には能登半島東側の新潟・佐渡沖、半島西側の志賀町沖の断層で今後、地震が発生しやすくなったという結果が出た。
 遠田氏は「佐渡島周辺や志賀町沖などで体に感じないほどの小さな地震が増えている。何らかのひずみが加わったサインだ」と解説する。「今後の地震の発生時期や規模は分からないが、陸地を含めて周囲100キロ以内の地震活動は活発になっており、しばらく警戒が必要だ」と説く。

◆「流体」今回の地震のトリガーに?

 「流体」の存在も気にかかるところだ。
 能登半島で起きた近年の群発地震は、地下深くから上昇した水などの流体が原因とされる。断層帯にある岩盤の隙間に流体が入り込み、潤滑油のように作用することで断層がずれやすくなったと考えられてきた。
 「流体が今回の地震のトリガーとなった可能性がある」と話すのは金沢大の平松良浩教授(地震学)。
 今後も流体が断層活動を引き起こすのか。

◆「地震を起こしやすくする力がかかった」

 平松氏は「現時点では分からない」との見方を示す一方でこう続ける。「今回の地震によって、能登半島の西側を含め、北陸一帯の多くの断層帯に地震を起こしやすくする力がかかったことが分かっている。マグニチュードで7クラスの大地震発生のリスクは相対的に高くなった」
「今回の地震で得られた知見を的確に対策に反映していく」と話す北陸電力の松田光司社長

「今回の地震で得られた知見を的確に対策に反映していく」と話す北陸電力の松田光司社長

 次なる地震で心配なのが志賀原発だ。立地するのは能登半島の西側。地震が起きやすくなったとも。原発の周辺は、活動性が否定できない断層が少なくない。北陸電の資料を見ると、原発の10キロ圏に限っても陸に福浦断層、沿岸地域に富来(とぎ)川南岸断層、海に兜岩沖断層や碁盤島沖断層がある。
 次なる地震に原発は耐えられるか。北陸電の広報担当者は、地震の揺れの強さを示す加速度(ガル)を持ち出し「原子炉建屋は基準地震動600ガルまで耐えられ、今回の地震による地盤の揺れは600ガルよりも小さかった。さらに2号機については1000ガルまで耐えられると新規制基準の審査に申請している。原子力施設の耐震安全性に問題はない」と話す。

◆「想定を超えた」北陸電の言い分

 北陸電の言い分はうのみにしづらい。そう思わせる過去があるからだ。
 同社が能登半島北側の沿岸部で想定してきた断層活動は96キロの区間。だが先の地震では、政府の地震調査委員会が震源の断層について「長さ150キロ程度と考えられる」と評価した。
 なぜ想定を超えるのか。
 「海底の断層を調査する音波探査は、大型の船が必要。海底が浅い沿岸部は、調査の精度が落ちる。近年は機器が改良され、小型化されたが、特に日本海側は調査が行き届いていない」
石川県志賀町の海岸部を視察する新潟大の立石雅昭名誉教授(左)=2013年

石川県志賀町の海岸部を視察する新潟大の立石雅昭名誉教授(左)=2013年

◆現行の技術水準では全容捉えがたく

 こう指摘するのは新潟大の立石雅昭名誉教授(地質学)。陸の断層も「地表に見える断層が数キロ離れていても、地下で一つにつながっているかもしれない」。
 現行の技術水準では捉えがたい活断層の全容。それだけに安心もできない。
 志賀原発周辺で注目すべき一つは、北に約10キロの距離にある富来川南岸断層。この断層の全容は見方が割れる。北陸電の資料では陸域を中心に長さ9キロと書かれる一方、研究者からは、海まで延びる可能性を指摘する声が上がってきた。
 脅威の程度が捉えづらいこの断層。再評価を求めるのが名古屋大の鈴木康弘教授(変動地形学)だ。

◆地表のずれとたわみ、志賀町内に点在

 先の地震後に志賀町内を調べ、富来川南岸断層とみられる地表のずれやたわみが点在しているのを確認した。「1970年代から推定されていたが、今回の痕跡でより確度が高まった」
 鈴木氏は「今後の活動が必ずしも迫っているとは思わない」と慎重な見方を示しつつ、「先の地震では、能登半島北西部の沿岸の断層がどのような動きをしたのかは分かっていない。今までの知見に頼らず、断層の評価を検討し直す必要がある」と語る。
北陸電力が報道陣に公開した富来川南岸断層の調査現場=石川県志賀町で

北陸電力が報道陣に公開した富来川南岸断層の調査現場=石川県志賀町で

 志賀原発の近くにあり、多大な影響を及ぼしかねない富来川南岸断層。同様に再検証が必要なのが、原発の西4キロの海域で南北に延びる兜岩沖断層という。北陸電の資料によれば、「活動性が否定できない」とされ、長さは4キロとある。

◆「計算するまでもなく原発はもたない」地盤がズレたら…

 鈴木氏は「本当にこの長さか。今回の地震で、沖合に長い断層があることで隆起が起きることが改めてわかった。原発付近も海岸に同様の隆起地形があることから、長い断層がないと説明できない」と訴える。
 原発に及ぶ地震の脅威でいえば、揺れ以外にも思いを巡らせる必要がある。地盤のズレもだ。元東芝原発設計技術者の後藤政志氏は「メートル単位で上下や水平方向にズレが生じたら、計算するまでもなく原発はもたない」と指摘する。
 原発は、揺れの大きさに対して耐震設計基準が示されている一方、地盤のズレなどにより「原子炉建屋が傾いたり、損壊したりすれば壊滅的な被害となる」。配管にズレが生じると取水できず、核燃料を冷却できなくなる可能性もある。

◆手放しで安心できぬ規制委の判断

 志賀原発は2012年、直下に断層があり、これが動いて地盤のズレが生じうると指摘された。原子力規制委員会は昨年、直下断層の活動性を否定する北陸電の主張を妥当と判断した。
 ただ、手放しで安心できるかといえば、そうではないと後藤氏は説く。「周囲の断層が起こす地震によって、直下断層の動きが誘発される恐れもある」
 地震リスクの懸念が拭い去れない志賀原発。いま、何をすべきか。龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「原発が止まっているとはいえ、核燃料がプールで保管されている。金属製のキャスクに移すなどの対策が必要ではないか」と述べ、災いの元凶になりうる核燃料の扱い方について早急に議論するよう求める。
 地震リスクは他の原発にも潜むとし「現状で動いている原発も止めた上で断層の再評価など規制基準の見直しが必要だ」と訴える。

◆デスクメモ

 被災した方々を考えると、次の地震が起こらないよう願うばかり。ただ核燃料は、まだ志賀原発に。プールは揺れやズレに耐えられるか。搬出すべきか。それは可能か。事が起きた時、被災地に残る方々が避難できるのか。願うばかりでは心もとない。どう備えるかの議論も必要では。(榊)

もし志賀原発が稼働中だったら… 元京都大助教・小出裕章さんの警告

最大震度7を観測した能登半島地震の発生から間もなく1カ月を迎える。北陸電力志賀原発(石川県志賀町、停止中)は、外部電源や非常用電源が一部使えなくなり、放射線監視装置(モニタリングポスト)の一部も測定不能になるなどのトラブルが次々に明らかになった。北電側は「安全上の問題はない」と繰り返しているが、原子力安全が専門の元京大原子炉実験所助教・小出裕章氏は「10年以上運転停止していたことが幸いした」と安全性に疑問を投げかける。稼働中だった場合、今回の地震で志賀原発にどんな危険が想定されたのかを語ってもらった。(中日新聞 1月30日)
「志賀原発が運転停止中だったことが幸いだった」と語る小出裕章さん=長野県松本市で

「志賀原発が運転停止中だったことが幸いだった」と語る小出裕章さん=長野県松本市で

 能登半島地震による志賀原発の一部電源喪失 1日に石川県志賀町で震度7、1号機地下で震度5強を観測。変圧器が故障して油が漏れ、外部電源5回線のうち2回線が使用不能になった。16日の余震後には1号機の非常用発電機3台のうち1台が試運転中に自動停止した。

 -能登半島地震の発生時、志賀原発が稼働中だったら、どんな被害が出た可能性があるか。
 志賀原発が10年にもわたり停止していたことが何より幸いだった。原発の使用済み燃料は発熱しているが、10年たつと発熱量は運転停止直後に比べ、千分の1以下に低下する。今回の地震で志賀原発は外部電源の一部系統が使えなくなり、非常用発電機も一部停止した。稼働していたら、福島第1原発と同様の経過をたどったかもしれない。
 -具体的にどのようなプロセスでそうなるのか。
 出力100万キロワットの原発の場合、原子炉の中では、ウランが核分裂して3倍の300万キロワット分の発熱をしている。大地震の際は制御棒を入れて核分裂反応を止めるが、実は300万キロワットのうちの21万キロワット分の発熱は、ウランの核分裂で出ているわけではない。それまでに生成された「核分裂生成物」が原子炉の中に膨大にたまっており、「崩壊熱」を出している。
 制御棒でウランの核分裂反応を止めても、21万キロワット分の崩壊熱は止められない。膨大な発熱だ。福島でも核分裂反応は止まったが、崩壊熱を止めることができないまま、電源が何もなくなり、冷やせないために炉心が溶けて、(放射性物質が)大量に出てしまった。
 -停止中の原発ではどうなるのか。
 核分裂生成物は約200種類の放射性物質の集合体で、寿命の長い物質もあれば、半減するまでに8日と寿命が短い物質もある。10年もたつと、発熱する放射性核種がほとんど残っていない。21万キロワット分の崩壊熱が千分の1になると210キロワット。1キロワットの電熱器200個分ぐらいを冷やせればいいことになる。仮に全電源が喪失して冷却できなくなっても、巨大な使用済み核燃料プールにつかっているわけだから、水が干上がって使用済み燃料が溶けるような事態にはならない。
 -今回、変圧器が破損した。北陸電力の耐震設計は甘かったのか。
 もちろん甘かったと指摘できる。運転中の原発で変圧器がだめでした、ということになれば、それこそ事故に直結してしまう。
 -昨年3月、原子力規制委は北電の「敷地内に活断層はない」という主張を妥当と判断し、志賀原発2号機再稼働への道を開いた。だが、そもそも原発周辺のすべての断層を正確に把握し、耐震設計をすることはできるのか。
 どこに活断層があり、活動度がどれだけだ、ということが完璧に分かれば、地震が予知できる。しかし地震を予知できた試しはかつて一度もない。今回、活断層が150キロにわたって連動した可能性が指摘されている。こういうことが起きて「想定外」だったと言う。だが、重大な結果を招く原発に関して想定外なんて言い方はしてはいけない。
 日本は国土面積が世界の0・25%しかない小さな国だが、世界の地震の1割から2割が起きている。そんな場所に57基もの原発を建ててしまったことこそ誤りだったと知るべきだ。
 今回一番学ばなければいけないことは、志賀原発が止まっていてよかったということ。100万キロワットの原発が1年間稼働すれば、広島原爆がつくった死の灰の千発分の核分裂生成物ができる。運転中に地震に襲われるのとは全然違うことを皆さんに分かってほしい。
 (聞き手・伊東浩一)

 こいで・ひろあき 1949年、東京生まれ。74年、東北大大学院工学研究科修士課程修了(原子核工学)。専門は放射線計測、原子力安全。2015年3月に京大を定年退官したのを機に長野県に移住した。

北陸電力は「想定内」

 北陸電力は、志賀原発の運転中に能登半島地震と同規模の地震が発生した場合について、「同時に全外部電源が失われても『止める』『冷やす』『(放射性物質を)閉じ込める』の安全機能を満足できる設計になっている」と強調する。
 珠洲沖の活断層が150キロにわたり連動したことについては、「これらの断層を活断層と評価し、さらに複数の断層の連動も評価している。その規模はマグニチュード(M)8・1クラスの地震を想定しており、今回のM7・6は想定範囲内の規模」と説明。震源断層については、「国や各種研究機関の報告を注視するとともに、必要に応じ今後の国の審査に適切に反映していく」としている。

日本が西側の兵器工場に 日本製の武器が米国経由でウクライナやイスラエルに

・殺傷兵器を含むライセンス兵器の輸出が国会審議を経ないまま全面解禁
・ロシア政府は「ウクライナ紛争で枯渇した弾薬や武器を補充する」「あらゆるウクライナ向け軍事支援貨物はロシアの正当な軍事標的となる」と明言
「日本は、国際紛争を助長しないという憲法の理念に基づき、1970年代に武器を原則禁輸とするルールを確立。2014年、輸出の一部容認に転換したが、国際共同開発品を除き、殺傷武器の輸出は禁じてきた。今回の見直しは、武器輸出を制限してきた戦後の歩みからの逸脱となる。」(東京新聞)
自衛隊が現在保有する武器のライセンス生産品は79品目、地対空誘導弾や多連装ロケットシステム、F15戦闘機、輸送ヘリCH47などが含まれます(写真)。イタリアと共同開発される次期戦闘機も殺傷兵器そのもの。
ライセンスを供与しているのは、米、英、仏、独、伊、ベルギー、スウェーデン、ノルウェーの8カ国。全品目のうち30品目が米国に帰属し、対アメリカ輸出が拡大されると。
現状「戦闘中の国や地域への輸出はない」とのことですが、どうでしょうか…。昨年3月にも「米国を始め我が国との間で安全保障面での協力関係がある諸国」に含まれないウクライナに防弾チョッキを送るために防衛装備移転三原則をなし崩し的に拡大解釈しているのです。
日本製の武器が米国経由でウクライナやイスラエルに渡った場合は、参戦したと見なされ、日本が紛争に巻き込まれる可能性があります。地対空誘導弾「改良ホーク」はすでにウクライナで使用されており、米国は日本で生産された同兵器を供与する気満々のようです。
実際、現地メディアが伝えるところによると、ロシア政府は「米国が日本で生産された装備を欧州に移転し、ウクライナ紛争で枯渇した弾薬や武器を補充する」と見ており、ラブロフ外相は、「あらゆるウクライナ向け軍事支援貨物はロシアの正当な軍事標的となる」と明言しています。
政府はこのような大事な協議を密室で行い、国会での説明を拒んでいるとのこと。なぜ今、殺傷兵器を含む武器の輸出解禁が必要なのか、情報開示するべきではないでしょうか。
この経緯については東京新聞が詳しく追っていますので、ご参考迄。
「ライセンス生産」武器の対アメリカ輸出拡大で大筋合意 自民・公明 「軍事技術の拡散にならない」(11月16日)
バレると世論が怖いから…武器輸出ルール見直し、議論も議事録も非公開 官邸は自公に『記者に言うな』命令 (11月18日)
日本で製造した「ライセンス」武器、戦地以外なら第三国への移転OK 自民・公明がルール緩和で一致 (11月30日)
「ライセンス生産」武器、大幅な輸出解禁を提言 自民と公明の実務者協議 第三国への「完成品」は結論先送り(12月13日)
開示された弾薬・砲身・銃のライセンス品
ライセンス元 種別・名称
米国 【誘導弾等】シースパロー/改良ホーク/
PAC2/PAC3/70ミリロケット弾
【艦艇搭載武器】62口径5インチ砲/垂直発射装置(VLS)
英国 【火砲・弾薬】81ミリ迫撃砲/81ミリ迫撃砲用りゅう弾/
16式機動戦闘車の砲身/155ミリりゅう弾砲用りゅう弾
フランス 【火砲・弾薬】120ミリ迫撃砲/120ミリ迫撃砲用りゅう弾
ドイツ 【火砲】155ミリりゅう弾砲FH70/90式戦車の砲身
イタリア 【艦艇搭載武器】54口径127ミリ速射砲/62口径76ミリ速射砲
ベルギー 【小火器】5.56ミリ機関銃MINIMI
スウェーデン 【火砲・弾薬】84ミリ無反動砲/84ミリ無反動砲用りゅう弾
ノルウェー 【弾薬】20ミリ多目的弾

オスプレイ飛行停止を 木更津の市民団体、「事故の調査報告で、ヒューマンエラーではなく構造的欠陥と分かり、その後も事故や『予防着陸』と称した緊急着陸が相次ぐ。新しい状況の中、『安全を確認して』という段階ではなく、飛行停止を求めるしかないとなった」

木更津駐屯地に暫定配備されているオスプレイ

木更津駐屯地に暫定配備されているオスプレイ

 千葉県木更津市の陸上自衛隊木更津駐屯地に暫定配備されている陸自V22オスプレイを巡り、同市の市民団体が4日、渡辺芳邦市長宛てに要請書を提出した。2020年7月に暫定配備が始まって以降は安全性の確保を中心に訴えてきたが、相次ぐ事故や緊急着陸を受け、初めて飛行停止の要請に踏み込んだ。同日、木原稔防衛相にも同じ文書を速達で郵送した。(山本哲正)
 提出したのは「オスプレイ来るな いらない住民の会」。要請書は、昨年6月、米国カリフォルニア州で起きた米海兵隊MV22オスプレイの墜落事故に言及。陸自V22の飛行停止のほか、MV22をはじめとする米国の全オスプレイの飛行停止を米軍に申し入れることも、防衛省と木更津市に求めている。
 また、住宅地上空の飛行や低空飛行、騒音などにより、住民から生活不安の声が寄せられるとし、「コストコ周辺など商業施設上空での低空飛行をやめて」「住宅上空で(高速移動や垂直離着陸などの)モード転換をしないで」との訴えも付した。
 同駐屯地では17年2月から米海兵隊MV22オスプレイの定期機体整備も行われている。昨年6月のMV22墜落事故の調査報告書は今年7月に出たが、その後の8月27日、オーストラリア北部ダーウィン沖で新たにMV22が墜落。搭乗してい3人が死亡した。
 木更津市によると、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)所属のMV22では9月14日に4機、16日、21日に各1機が奄美空港(鹿児島県)などに予防着陸した。8月31日には陸自V22が空自静浜基地に予防着陸をした。原因とされたギアボックスの交換作業が進められ、10月10日以降に静浜基地周辺の洋上で試験飛行し、11日以降に木更津駐屯地に帰投する予定という。
 住民の会の前事務局長・野中晃さんは「事故の調査報告で、ヒューマンエラーではなく構造的欠陥と分かり、その後も事故や『予防着陸』と称した緊急着陸が相次ぐ。新しい状況の中、『安全を確認して』という段階ではなく、飛行停止を求めるしかないとなった」と背景を語る。
 ◇
 住民の会の動きとは別に、木更津市も2日、V22など航空機の安全対策の徹底などを求める要望書を防衛相らに宛てて提出。(1)(駐屯地を取り囲むように設定してある)場周経路での飛行訓練で可能な限り高い飛行高度の維持(2)夜間飛行は必要最小限に(3)重要な観光資源の潮干狩りには最大限の配慮を(4)V22の暫定配備期間は配備開始から「5年以内を目標」とした合意を守ること-などを求めている。

オスプレイ緊急着陸 3日間で5機 奄美に2機、そして石垣に2機、さらに大分に1機

オスプレイ緊急着陸 3日間で5機 民間空港周辺でも強まる不安

2023年9月20日 12時00分 東京新聞
 垂直離着陸輸送機オスプレイの民間空港などへの緊急着陸が、先月末から相次いでいる。海外では昨年来、墜落事故が3件発生しており、基地周辺の住民らに不安が広がる。10月の日米共同訓練で自衛隊のオスプレイが初めて沖縄に派遣される予定もあり、注目は高まる一方だ。短期間に続くトラブルは何を意味しているのか。(曽田晋太郎、木原育子)
沖縄県石垣市の新石垣空港に緊急着陸した米海兵隊の輸送機オスプレイ=14日午後(目撃者提供、共同)

沖縄県石垣市の新石垣空港に緊急着陸した米海兵隊の輸送機オスプレイ=14日午後(目撃者提供、共同)

 「ほぼ同じタイミングで5機も続けて緊急着陸するなんて異常。聞いたことがなく、怖いのと同時に大変遺憾で、あり得ない」
 普天間基地爆音訴訟団の玉元一恵事務局長(63)は声を荒らげる。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)所属の米海兵隊輸送機MV22オスプレイで相次いだ緊急着陸のことだ。

◆奄美に2機、そして石垣に2機、さらに大分に1機

 まず14日午後2時過ぎ、鹿児島県奄美市の奄美空港に2機が着陸。事前の連絡はなく、直前になって国土交通省那覇空港事務所から県奄美空港管理事務所に連絡が入った。
 同日午後3時過ぎには、沖縄県石垣市の新石垣空港に別の2機が着陸。これも事前連絡はなく、直前にオスプレイの乗員から空港の管制官に着陸要請があったといい、滑走路が一時閉鎖された。
 さらに16日午後4時半ごろ、大分県国東市の大分空港に1機が着陸。滑走路が一時閉鎖され、民間機の発着に遅れが出た。
 米軍のオスプレイは先月、豪州で訓練中の1機が墜落し、搭乗員3人が死亡。昨年は3月にノルウェーで4人、6月に米カリフォルニア州で5人が死亡する墜落事故も起きている。このうちカリフォルニアの事故について、米軍は今年7月の調査報告書で、クラッチが一時的に離れて再び結合する際に衝撃が発生する「ハード・クラッチ・エンゲージメント(HCE)」という現象が原因と断定。人為的ミスの可能性を否定し、機体に問題があったと結論付けたばかりだ。
 米海兵隊では今月17日にも、訓練中のステルス戦闘機F35が行方不明になる事故が発生。相次ぐ米軍機の事故を受け、海兵隊は18日、在日米軍のオスプレイも含む全機体の週内2日間の飛行停止を指示した。
 一連の緊急着陸の原因について、在日米海兵隊第1海兵航空団は取材に対し、「コックピット内で異常を知らせる警告が表示されたため。安全飛行するため、細心の注意を払って行動した結果だ。現時点でHCEに起因する故障は確認されていない」と回答した。

◆飛行停止申し入れの直後にも

 前出の玉元さんは普天間飛行場から約1キロの住宅街に暮らし、日常的に騒音に悩まされ、事故の恐怖と隣り合わせの生活を強いられている。立て続けの緊急着陸は「恐怖でしかなく、そんなことがまかり通っているのはおかしい」と訴える。
 玉元さんによると、普天間基地爆音訴訟団などは豪州の事故を受けて14日午前、日本政府や米軍に、カリフォルニアの事故の調査で不具合が認められたオスプレイの飛行停止を申し入れていた。しかし、その直後の同日午後、オスプレイ2機が新石垣空港に緊急着陸したという。
 玉元さんは「危惧していたことが実際に起きた。欠陥機をしっかり点検もせず、沖縄の上空を飛ばすなと言いたい」と語気を強める。2日間の飛行停止についても「わずか2日で安全の確認が取れるのか。不十分で、徹底解明を求めたい」と強調する。
◆陸自は「危険の未然防止」と言うが…
 オスプレイのトラブルは米軍にとどまらない。8月31日には、陸自の輸送機V22オスプレイ1機が航空自衛隊静浜基地(静岡県焼津市)に予防着陸した。
 予防着陸とは耳慣れない言葉だが、防衛省南関東防衛局地方調整課の輪瀬正展課長は「不具合の発生や気象状況の悪化など今すぐの危険な状況ではないが、危険の未然防止のために行う着陸を指す。継続した脅威や突発的な異常で速やかに着陸する緊急着陸とは緊急度が違う」と説明する。
 ただ、自衛隊のオスプレイの予防着陸はこれが初めて。エンジンの動力をローターに伝える「プロップローター・ギアボックス」内でギアなどが高速回転し、摩耗。その結果、金属片ができたことを知らせるランプが点灯し、予防着陸に至ったという。
陸上自衛隊のV22オスプレイ=2020年、千葉県木更津市で(共同)

陸上自衛隊のV22オスプレイ=2020年、千葉県木更津市で(共同)

 けが人はなかったが、部品交換や点検に1カ月半かかるとみられている。輪瀬氏は「試験飛行などの情報はまだ聞いておらず、整備中の状況」という。
 19日には、木原稔防衛相も記者会見で緊急着陸について問われ、「米側に対して、事案の原因に関する情報提供を求めるとともに、改めて安全管理を徹底するようにも申し入れをしている」と述べた。

◆10月、陸自機初めての沖縄派遣

 このような中、10月14〜31日には、陸自と米海兵隊の計6400人が北海道、九州、沖縄で国内最大規模の共同訓練「レゾリュート・ドラゴン23」を行う予定。レゾリュート・ドラゴンは「不屈の龍」を意味し、前回の3500人規模から大幅に拡大する。
 この際、陸自はオスプレイを初めて沖縄に派遣。新石垣空港を使った負傷者輸送訓練など島しょ防衛を想定した内容になる。
 緊急着陸の続発を受け、沖縄県は13日付で防衛省にオスプレイの飛行自粛を要請した。木原氏は15日の記者会見で「日米同盟の抑止力・対処力の強化を図る重要な訓練」と拒否。陸上幕僚監部広報室も取材に対し「安全性に配慮しながら運用していく」としている。
 V22の佐賀空港配備計画に揺れる佐賀県の市民団体「みんなでSTOPオスプレイ佐賀」共同代表の山下明子さん(63)は「異常事態にほかならない。市民の命と安全を脅かしている」と訴える。
 8月29日にはV22の駐屯地建設工事を巡り、地権者のノリ漁師ら4人が工事差し止めの仮処分を佐賀地裁に申し立てたばかり。山下さんは「佐賀空港は1998年に開港したが、その際、県は覚書に『自衛隊との共用はしない』と明記した。軍用空港になれば必ず攻撃目標になるからだ。平和な有明の海を守りたい先人らの思いの結実だった」と話す。

◆「緊急」許せば、知らず生活が脅かされる

 ネットには緊急着陸(予防着陸)で危険を未然に防いだと評価する声もあるが、緊急着陸した翌々日に新石垣空港を訪れた沖縄大の高良沙哉教授(憲法学)は「民間空港に当たり前のようにオスプレイが止まっていて平和な石垣の景色ではなかった」と話す。「緊急着陸が頻発すれば、緊急ならばやむを得ないかと無意識に譲歩する。知らず知らず生活が脅かされている」と危機感を募らせる。
 沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)も「沖縄でなぜ訓練が増えているのか理由が全く見えない。『台湾有事』と言って米軍に乗せられ、こちら側から仕掛けている」と指摘。今回の緊急着陸を「不時着」と呼んだうえで、「不時着が繰り返され、『またか』と感覚を慣らされ、声を上げられなくしている。日本政府は不時着がこれだけ頻発しても飛行停止はおろか不時着原因の調査や再発防止策も米軍に求めない。国民の命を軽視していないか」と訴える。

◆デスクメモ

 玉城デニー知事が演説で沖縄の過重な基地負担を訴えたのは、国連人権理事会。「平和が脅かされている」状況は、平和のうちに生存する権利も侵害されているといえる。そんな島に、さらに基地負担を上乗せする動きに納得が得られるわけがない。日本の人権水準が問われる局面だ。(本)

米海兵隊のオスプレイが豪北部で訓練中に墜落 3人死亡 5人重体 NHK

防衛ジャーナリスト・半田滋さんの #エキスパートEye(全文)

沖縄タイムス

 宜野湾市の普天間基地にも配備されている垂直離着陸輸送機「#オスプレイ」の墜落事故は各地で頻発している。問題は構造上の不具合や弱点が原因である疑いがあることだ。  昨年6月、米カリフォルニア州で墜落し、5人が亡くなった事故はエンジンとローターをつなぐクラッチの不具合が原因と判明した。米海兵隊はクラッチに起因する墜落事故は1件もないとしてきたが、起きていたことになる。

 今年から操縦士への再教育と機材の定期的な交換を始めたというが、本来の解決策はそうした対症療法ではなく、不具合が起きないよう改修することだ。しかし、米国防総省国防分析研究所のレックス・リボロ元主任分析官は、制約が多く、再設計は容易ではないとの見解を示している。

 2017年にオーストラリアで起きた普天間基地所属のオスプレイの墜落事故は、強襲揚陸艦に着艦する際、自身が発生させた下降気流が艦体に当たって跳ね返り、失速したことが原因だった。

2016年、名護市の浅瀬に不時着した事故は飛行中に空中給油機の給油パイプをたたいてしまい、ローターが破損したために起きた。

いずれも他の航空機にはない構造上の弱点が遠因といえるだろう。

 今回の事故原因は判明していないが、日本でオスプレイを運用する米海兵隊や米空軍は安全を確認するまで飛行を見合わせるべきである。飛行見合せは、千葉県の木更津駐屯地に配備された自衛隊版オスプレイも例外ではない。

米海兵隊のオスプレイが豪北部で訓練中に墜落 3人死亡 5人重体

オーストラリア北部のメルビル島でアメリカ海兵隊のMV22オスプレイが訓練中に墜落し、乗っていた3人が死亡し、5人が重体となっています。

アメリカ海兵隊によりますと、27日午前9時半ごろ、オーストラリア北部のダーウィンに近いメルビル島で、アメリカ海兵隊の輸送機、MV22オスプレイが訓練中に墜落しました。

機体には23人が乗っていましたが、3人が死亡し、5人が重体で病院に搬送されたということです。

このオスプレイは通常の訓練のために隊員を移送していたということで、アメリカ軍が事故の原因を調べています。

オーストラリアのアルバニージー首相は「亡くなられた3人の方々、けがをされた方々、ほかの乗組員、そしてアメリカ軍に深い哀悼の意を捧げる」と声明を発表しました。

アメリカ海兵隊のオスプレイをめぐっては、去年6月にもアメリカのカリフォルニア州でも墜落し乗っていた5人が死亡するなどしています。

欠陥機オスプレイ 飛行停止と撤去を

オスプレイ墜落報告書
陸上自衛隊のオスプレイ飛行を見合わせ

昨年6月に米カリフォルニア州で発生した米海兵隊のMV22オスプレイの墜落事故について、機体に原因があったと認める調査報告書が公表された。開発段階から指摘されてきた構造的問題を認めたことになる。
報告書を受けて防衛省は7月22日から陸上自衛隊のオスプレイ飛行を見合わせている。一方、在日米軍のオスプレイは飛行を継続。沖縄県民は「危険な機体がこれ以上、県民の頭上を飛ぶことは許されない」と声を上げている。

「壊滅的かつ予期せぬ機械的故障」「原因は不明」
報告書は、エンジンとプロップローター(回転翼部分)をつなぐクラッチの作動不良による「壊滅的かつ予期せぬ機械的故障」であり、13年間で同様な事故が15件発生、「根本的な原因は依然として不明」としている。
このクラッチの不具合は、昨年8月に米空軍が約1カ月間、全面飛行停止し、自衛隊オスプレイも一時飛行を中止した。
今までのオスプレイ墜落事故は、ヒューマンエラーが強調されたが、今回そうではないと明確になった。
米軍と自衛隊の欠陥機オスプレイは、沖縄はじめ全国各地で住民の頭上を日々、飛び回っている。砂漠に墜落したカリフォルニアでの事故では乗員5人全員が死亡した。同じことが起きれば住民を巻き込む大惨事になる恐れがある。

木更津にも、佐賀にも
オスプレイはいらない!

陸自オスプレイの佐賀空港への配備計画に反対する市民らが29日、佐賀市で佐賀駐屯地(仮称)建設工事の差し止めを求める仮処分申請などの裁判を支援する「キックオフ集会」を開いた。県内外から約400人が参加。集会で8月29日に仮処分を申し立てることが報告された。

陸上自衛隊V22オスプレイの佐賀空港配備計画を巡り、防衛省は6月12日、新設する佐賀駐屯地(仮称)の造成工事を地元住民が反対する中で始めた。2025年6月までに完成させ、木更津駐屯地のオスプレイを移す予定だ。
米海兵隊のオスプレイについては、8月10日から、最低飛行高度が航空法の150メートルから60メートルに下げられた。木更津駐屯地にも米海兵隊オスプレイの点検修理が行われている。
オスプレイ飛行を直ちに停止せよ!木更津への、佐賀へのオスプレイの配備を中止し、撤去せよ!

 

日本の国内法では最低安全高度を地上約150メートル以上と定められていますが海兵隊による運用は約60メートルに設定されています。米本国ではとても出来ないような訓練を日本では行うことができます。

防衛費は増額なのに「食の安全保障」は危機的状況  東京新聞

乳をしぼるほど赤字に…防衛費は増額なのに「食の安全保障」は危機的状況 離農急増「もう限界」

2023年3月30日 12時00分
 ロシアのウクライナ侵攻による飼料暴騰、需要減などで生産すればするほど損という状況に追い込まれている酪農家たち。先行きを悲観し全国で廃業が相次ぐ中、緊急の対策を求めて29日、国に電子署名8万人分を提出した。安全保障上の危機を理由にいきなり防衛費を増額させる岸田文雄政権だが、農家らからは「食の安全保障にも危機感を持て」と怒りの声が上がる。(木原育子、宮畑譲)

◆緊急対策求め 国に電子署名8万人分提出

農水省の担当者に酪農家の窮状を訴える農民連の長谷川会長(奥左から2人目)=29日、東京都千代田区の衆議院第2議員会館で

農水省の担当者に酪農家の窮状を訴える農民連の長谷川会長(奥左から2人目)=29日、東京都千代田区の衆議院第2議員会館で

 29日、衆議院第2議員会館(東京都千代田区)の一室。農家や酪農家らでつくる「農民運動全国連合会」(東京)の長谷川敏郎会長が深刻な表情で現れた。「一刻の猶予も許されない」と告げ、「酪農・畜産危機を打開し地域農業を守るための緊急要請」と書かれた文書を、農林水産省牛乳乳製品課の叶拓斗課長補佐らに手渡した。
 農民連が要望したのは5項目だ。酪農家の廃業や倒産を避けるため搾乳牛1頭あたり10万円の支援や、乳価の引き上げ策など。叶課長補佐は、「酪農は特に厳しい状況にあると認識している」と受け取った。
 だが、その後の要請行動は紛糾。前日の28日に農水省は搾乳牛1頭あたり1万円の支給などを決定した。長谷川会長は「10万円必要だと言っているのに、1万円で我慢しろでは続けられない」と訴え、笹渡義夫副会長も「農水省は危機感が足らないというのが率直な感想だ」と続いた。
金谷さんの牧場では毎日朝と晩、30頭に搾乳器を付けて生乳を搾乳しているという=金谷さん提供

金谷さんの牧場では毎日朝と晩、30頭に搾乳器を付けて生乳を搾乳しているという=金谷さん提供

 農民連が懸念するのは、中央酪農会議が今月発表した調査で、離農を検討している酪農家が6割に上ったことだ。会場に訪れた千葉の酪農家金谷雅史さん(39)は「乳牛をしぼればしぼるほど赤字になるからだ」と6割にうなずきながら、「全く希望が持てない」と訴えた。
 金谷さん宅は30頭ほどの牛がいる。朝5時から搾乳し、その後はトラクターに乗ってトウモロコシなどの餌作り。帰宅は午後9時を過ぎる。「働くことに何の意味があるのかと思ってしまう」と話す。
 要請行動でも思いを届けた。「机の上で数字をはじくのではなく、しっかり現場の声を聞いてもらいたい」と金谷さんが訴えると、会場からは「そうだ!」と声が上がった。
 農民連が農水省に手渡した文書には、酪農家からの切実な声も掲載された。「先週廃業した。地獄のように悩み、苦しみながら決断した。家族の一員だった牛たちと死に別れないといけない思いがわかるか」「酪農経営の良さがすべてなくなってしまった」ー
 大規模農場が多い北海道ではさらに切実だ。500頭を育てる士幌町の川口太一さん(59)は「身を削って何とか持ちこたえているが、もう限界。出血を止められないまま輸血している状況だ。命がもたない」と語り、「酪農業界は生産者とメーカー、国の関係がかなりいびつ。3者のパワーバランスを崩さない限り、抜本的改善はなされない」と見通す。

 千葉県睦沢町の中村種良さん(71)は「こんなに厳しい時代はかつてなかった」と語る。「酪農は餌代を含め、経費が他の産業に比べて多くかかるのが特徴。

せめて輸入を止めてくれれば、乳価は高くなり、助かる酪農家は多いだろう。農水省はどっちの味方なのか…」とため息しかなかった。

 声を上げているのは酪農家だけではない。農民連が電子署名活動を実施すると、わずか1カ月で8万1000件超の署名が集まった。事務局次長の満川暁代さん(51)は「1カ月でこんなに集まるとは関心の高さをうかがわせた。結束の輪を広げたい」と語る。

◆ウクライナ危機や円安 配合飼料が値上がり

 酪農家が追い詰められている様子はデータからも読み取れる。
 3月に中央酪農会議が実施した調査では、157人の酪農家のうち85%近くが赤字経営だと答えた。さらに、そのうち4割以上が月に100万円以上赤字だったという。中には1億円以上の借金があると答えた人もいた。離農を検討している酪農家が6割近くに上るのもこうした状況があるからだ。実際、同会議の指定団体が生乳を受託した酪農家の戸数は今年1月時点で、全国で前年比6.8%減、都府県では同比8.4%減っている。
 同会議の担当者は「酪農家の数はずっと減る傾向にあるが、例年は4%程度。昨年夏ごろから離農する酪農家が急激に増えている」と話す。
 経営不振の大きな理由は、ウクライナ危機や円安による影響で、トウモロコシを主原料とする配合飼料が値上がりしたことがある。
 農水省の「飼料月報」によると、今年1月の配合飼料用トウモロコシの工場渡し価格は1トンあたり9万4600円。前年同月の7万9700円から18.7%値上がりしている。2021年1月は6万8500円で、2年前と比べると、4割近く高騰したことになる。
 円安で機械を動かすための燃料費も上がっている。さらにコロナ禍で、学校給食や外食などの需要が減り、牛乳は供給過剰な状態が続いている。乳業会社が買い取る飲用乳価は昨年11月、約3年半ぶりに1キロあたり10円引き上げられたが、価格が上昇すると消費が低迷する可能性もある。
 こうした状況を受け、政府も28日、飼料価格高騰の対策として、予備費から965億円の支出を決めた。生産コストの上昇に対する補填ほてん金を増額し、4月以降は飼料高騰が続いても負担を抑える特例措置を導入する。
 しかし、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「1960年代以降畜産を振興したが、草地開発よりも海外産トウモロコシが安上がりだったため、酪農は輸入飼料依存型になった。飼料価格が上がったから政府が補填して価格を下げるといった対症療法ではなく、根本的な対策を考えなくてはいけない」と指摘する。
 牛は牧草よりも穀物飼料を与えたほうが早く成長し、乳量も増える。ただ、山下氏は「本来、牛は草を食べる動物。放牧して草を飼料として肥育すれば、飼料高騰の影響を受けないし、ふん尿も肥料となる。輸入飼料に依存していては、価格変動に影響を受けるのは当然で、食料安全保障上も問題がある」と強調する。
食料自給率(カロリーベース)の推移

食料自給率(カロリーベース)の推移

 岸田文雄首相は昨年、戦後の安全保障政策を大きく転換する安全保障に関わる3文書の改定を行い、防衛費の増額を打ち出した。その一方で、日本の食料自給率はカロリーベースで38%にとどまる。これでは、自衛隊の装備が充実しても、有事の際に食料関連の輸出を止める「兵糧攻め」に遭えば、国民は簡単に飢えてしまうのではないか。
 「飼料を海外に依存している限り、同じような事態はまた起きる。牛乳一つとっても危機的な状況になっている。自分の命をつなぐためにも、国内の農業を大切にすることを認識しなくてはいけない」。東京大の鈴木宣弘教授(農業経済学)はこう警鐘を鳴らす。
 鈴木氏も急に食料自給率を上げるのは簡単ではないとの認識だが、消費者が農家を支えることはできると訴える。「酪農家にとっては危機だが、大きな転機とも言える。消費者が国内で有機農法、循環型農法などを行う農家とつながり、ネットワークをつくる必要性は高まっている」

◆デスクメモ

 このまま酪農家が廃業していったら、国内産の牛乳や乳製品は供給不足になるかもしれない。政府は「それは輸入でまかなえばいい」と思っているのか。でも、今回の飼料同様、そのとき十分に輸入できる保証はない。今でも危うい食の安全保障。ミサイルよりも先に考えるべきでは。(歩)

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「ミサイル基地NO!」「石垣島を戦場にするな」

説明会参加者
「相手の基地まで飛ぶような長距離ミサイルを配備するなら、私はこれは自衛隊に賛成する人でも、反対する人でも、このことについて容認できない」

実際、政府はこの「12式地対艦誘導弾」を改良して「反撃能力」に用いることを想定。射程を伸ばした「能力向上型」の開発を進めています。射程は現在の百数十キロから1000キロ以上に伸びるとされ、仮に石垣島に配備されれば、中国本土も射程に入ります。

ただ、防衛省はこの能力向上型を石垣島に配備するのか明言を避けています。

「国民に金だけ出せなんて…」敵基地攻撃の具体例説明しない政府

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「国民に金だけ出せなんて…」敵基地攻撃の具体例説明しない政府 攻撃なくても相手国にミサイル

2023年3月29日 06時00分
 他国を武力で守る集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法が施行され、29日で7年。岸田政権はさらに踏み込み、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決め、集団的自衛権の行使で使うことがあり得ると明言している。だが、どんな場面を想定しているのか、行使の具体例を示すよう求められても説明を拒否し、分からないまま。識者は「政府に運用を白紙委任するのではなく、国会で基準を議論すべきだ」と指摘する。(川田篤志)

◆ミサイルの取得費含む2023年度予算成立

 「具体例は言わないのに、国民に金だけ出せなんて認められない」。28日の参院予算委員会で、立憲民主党の辻元清美氏は集団的自衛権の行使で敵基地を攻撃する具体例を説明しないまま、長射程ミサイルの取得費を盛り込んだ2023年度予算を成立させる岸田政権の姿勢を批判した。
 安保法を制定したのは安倍政権。歴代政権が違憲としてきた集団的自衛権の行使を認め、他国への武力攻撃で日本の存立が脅かされる「存立危機事態」を定義し、要件を満たせば行使できるようにした。
 だが、武力行使の範囲は主に公海上までが前提の議論だった。岸田政権は、相手国の領域にトマホークなどの長射程ミサイルを撃ち込むことも排除しない考えを示している。
 立民の岡田克也幹事長は1月の国会審議で「日本が攻撃を受けていないのに、相手国本土にミサイルを撃つのは専守防衛の一線を越えている」と指摘し、具体例の提示を要求。岸田文雄首相は「分かりやすく図式などで説明することはあり得る」「調整を進めている」と応じる考えを示したが、2月末には「安全保障上、具体例を示すのは適切ではない」と態度を一転させ、説明を拒んだ。

◆識者「歯止めとなる基準を具体化する議論を」

 安保法を巡っては、安倍政権が集団的自衛権行使の事例として(1)日本周辺の公海で警戒監視中に攻撃を受けた米艦の防護(2)武力紛争が起きた近隣国から避難する邦人輸送中の米艦の防護(3)グアムやハワイの米軍基地を狙った弾道ミサイルの迎撃—などを挙げた。戦後の安保政策を大転換する重大な局面で、国民への説明責任が求められたためだ。各事例の妥当性について国会で激論が交わされた。
 一方、敵基地攻撃能力の保有は立法化もなく、岸田政権が昨年12月に閣議決定した。明らかに説明不足で、岡田氏は「安倍政権の下で議論したときのような具体例を示してもらいたい」と主張する。
 浜田靖一防衛相は24日の記者会見でも、集団的自衛権行使の具体例提示は「困難だ」と繰り返した。防衛省幹部は「安保法のときは概念的に理解を深めてもらう目的で事例を示したが、今回はもろに運用に関わるため、手の内を明かしたくない」と漏らす。
 柳沢協二・元内閣官房副長官補は本紙の取材に、存立危機事態の要件が「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」などと曖昧で「その上に敵基地攻撃の議論が加わり、さらに分かりづらくなっている」と指摘。台湾を巡る米中の緊張が高まる中で「不必要な戦争に巻き込まれないよう、歯止めとなる基準を具体化する議論をするべきだ」と提案する。