経過と問題点

経過

2015.5   Aさん「身体障がい者枠」で習志野市正規職員に採用

2015.6.1  介護保険課で勤務開始

2015.11.30 条件付採用期間の終了するこの日、突然条件付採用を3か月延長、総務課への異動を人事課長から通告される

2016.2.12   人事課長「苦渋の決断をしなければならない」とAさんに解雇をにおわす

2016.2.15  「解雇されるのでは」という不安でいっぱいになったAさんが有給休暇をとったら総務部主幹から「当分親元に帰る」よう指示され、実家に帰った

2016.2.18  実家に総務部主幹から電話があり、22日に母親と来庁するよう指示される(母親は「その日は予定がある」と一旦断ったが、「とにかく来るよう」指示)

2016.2.22  Aさん、「至らなかったことがある」という謝罪文を介護保険課長、総務部次長、人事課長に提出したが、完全に無視される。 人事課長、Aさんと母親に対し「勤務成績良好と認められないため、正式採用しない」という解雇予告通知を行う。Aさん、その場に泣き崩れる。

2016.2.24or25 Aさん、宮本市長あてに上申書を郵送したが、宮本市長はこれを完全無視

2016.2.29  Aさん解雇。同日Aさんが自分の勤務実績報告書(解雇の根拠になった課長によるAさんの評価一覧)を情報公開請求。

2016.3.16  Aさんが「ユニオン習志野」に相談

2016.3.23   情報公開請求した勤務実績報告書などを受け取りに情報政策課に行ったが、評価欄はすべて墨塗りだった。

2016.4.6     Aさんの解雇撤回第1回交渉。総務部長「(法定雇用率を著しく下回っていることを千葉労働局に指摘され)法定雇用率をクリアするために身体障がい者枠で採用したのであり、他の一般職と同じ能力が求められる。障がい者だからといって、特別の配慮はしない。」と驚くべき発言。

2016.4.22   解雇撤回第2回交渉。当局「市長の指示で解雇した。」「障がい者枠採用であっても、評価は他の職員と差をつけない」。「解雇についてはもう交渉の余地がない」と回答

2016.5.26 解雇問題で市に対し38件の抗議があったことを市が公表
6月議会で8人の市議会議員が解雇問題で質問、追及を当局に行う
(9月議会、12月議会、2017年3月議会でも行われた)

2016.6.13 雨の中、解雇撤回を求めて市役所周辺のデモ

2016.10.2 団体交渉でユニオン習志野が改めてAさんの解雇撤回を当局に求めたが、「管理運営事項なので交渉には応じない」と当局が回答

2016.10.11 当局が解雇問題で交渉に応じようとしないため、千葉地裁に解雇撤回を求め、提訴。新聞7紙(朝日、毎日、読売、東京、千葉日報、産経、日経)やNHKニュース、千葉テレビニュースで報じられた

2016.12.9 千葉地裁で第1回裁判。Aさんと弁護側の意見陳述が行われ、新聞6紙(朝日、毎日、読売、東京、千葉日報、産経)や千葉テレビニュースで報じられた

 2017.2.17第2回裁判。当局側準備書面により、2016年12月から2017年2月まで3か月間の総務課勤務の期間、一日中Aさんの一挙手一投足を記入した「監視記録」(ネクタイが曲がっていた、5分前に出勤するよう指示したのに3分前に出勤した、などおよそ解雇の理由になどならないささいなことを職員にまで密告させ、Aさんに内緒で記入)を作っていた、つまり総務課は、解雇に追い込むための「追い出し部屋」だったことが明らかになり、その後3月議会でもこの人権侵害が問題になり、新聞にも報道された。裁判の中で当局は「上司個人が書いた実績報告書の評価が60点に満たないため解雇した。その法的根拠は次回裁判に提出するが、実績報告書そのものの内容は墨塗りで、開示しない」と回答したため、裁判長から「それでは解雇の是非を論じられないのでは」と疑問が出された。
 裁判に先立って、強風の中、千葉市内デモで「習志野市宮本市長は障がい者解雇撤回を」と訴え、千葉市民の注目を浴びた。

2017.4.7第3回裁判。当局側は「60点を解雇基準にする法的根拠はない」ことをついに認め、また頑なに開示を拒否していた上司個人による勤務実績報告書をしぶしぶ開示した。しかもその中身がAさん解雇という結論につじつまを合わせるため、どの項目もほぼ最低評価にしてあり、「勤勉」については「何の役にも立たない」、「信頼性」については「まかせることは全くできない」などAさんの人格を全面否定したひどい内容であることが明らかになった。障がい者枠で採用したにもかかわらず、Aさんは「あまり健康でない」から能力不足、「ネクタイが曲がってい」るから「社会人として不適格」、「迷惑な存在」など、障がい者を「迷惑な存在」として排除しようとする、おぞましい差別文書であることも判明した。

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解雇の問題点

・雇用者責任、指導責任を徹底的に回避しようとする市長。
市の指導力不足の責任こそが問われるべき

Aさんは「筆記試験」「事務適性検査」「面接試験」をパスし、昨年6月に正式採用されました。市長や市当局には採用した職員に対する「雇用責任」があり、指導・育成する義務があります。仮に新規採用された職員が十分能力を発揮できなかった場合、市当局の指導力不足の責任こそが問われなければなりません。自治体の業務は1年が1サイクルなので、新規採用職員は何とか仕事の全容がおぼろげにつかめるまで1~2年かかります。自らの「指導力不足」を反省するどころか、雇用者責任から逃げ回り、「障がい者枠」で採用した青年をわずか9か月で「解雇」という乱暴な手段を使った市長の暴挙は、社会的に許されるものではありません。

・誰もが驚く「障がい者枠で雇用した職員を『能力不足』で解雇」という暴挙

「障がい者枠で雇用した職員を『能力不足』で解雇」と聞いて驚かない人はいません。人間にはいろいろな個性があります。「事務能力」だけで一律に人間を判断する職場は冷え冷えしたものになり、行き詰まります。障がいも個性であり、障がいのある人を理解し、必要な配慮を行うことによって、今いる個々の職員にも実は配慮が必要だったことに気づく場合もあります。
「障がい者だからと言って特別の配慮はしない」「障がい者にも他の一般職と同じ能力が求められる」と平気で言う総務部長発言は、単なる「不見識」ではすまされません。障がいを持った職員を受け入れる場合の指針もマニュアルも持たない「ないないづくし」の習志野市。本来は民間の障がい者雇用を推進するため率先垂範しなければいけない自治体がこのありさまであることに誰もが驚いています。

・4月の「障害者差別解消法」「改正障害者雇用促進法」の施行を前にした「駆け込み」解雇は「共生社会」への挑戦

2006年国連総会で「障害者の権利に関する条約」が採択され、千葉県ではその年の10月、全国に先がけて「障がいのある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」を制定しました。2014年には日本政府も「障害者の権利に関する条約」を批准し、2016年4月には「障害者差別解消法」「改正障害者雇用促進法」が施行され、障がい者への「合理的配慮」が義務づけられるなど、共生社会に向け、社会が一歩一歩前進しつつあります。
こうした流れに挑戦するかのように、「4月以降の障がい者解雇は難しくなる」、と危機感にかられた習志野市はこれらの法律施行の直前、2月29日に「駆け込み解雇」を行ってきたのです。極めて悪質です。

・背景に習志野市の障がい者差別体質とコンプライアンス(法令順守)違反

「障害者雇用促進法」では自治体の障がい者法定雇用率は2.3%となっていますが、習志野市は2008年以降ずっとこれに違反し2014年には県下最下位「あと5.5名障がい者を雇わなければ法令違反」という異常事態でした。
千葉労働局から是正指導が行われ2015年4月には県でやっているチャレンジドオフィスが習志野にも作られ、6月には「障がい者枠」で2名を雇用し、やっと法定雇用率をクリアしましたが、2名のうち1名は退職、もう1人のAさんも不当解雇され、再び法令違反状態になりました。「法律違反だ、と指摘されたので仕方なく障がい者枠で雇用したが、障がい者を職場に受け入れるための配慮はしない」という習志野市の法令順守意識の低さ、障がい者差別体質が今回の事件を引き起こした、と言えます。

・障がい者雇用は「税金の無駄使い?(市長)」「高い買い物?(与党議員)」

2016年6月議会で以下の発言がありました。
「公務員は全体の奉仕者として、そして、そのお給料については納税者が負担をしている」(市長)
「人を物に例えるのはいかがなものかと思いますが、率直に申し上げて、高い買い物になるのか、お得な買い物になるかは、生涯雇用を基本とする公務員の場合、職員の採用にかかっているといっても過言ではございません。」(与党公明党議員)

「障がい者雇用はお荷物であり、税金の無駄使い」という習志野市の障がい者差別、人間侮蔑の考え方が今回の不当解雇の背景にあります。

・正式採用後の「条件付採用期間」は「未だ未完成な職員の教育期間」であり、過去に「条件付採用期間終了」で解雇された例はない

「条件付採用期間終了で解雇」ということはふつうあり得ません。他の自治体に聞いても「そんな例はずっと昔から聞いたことがない」という回答でした。
唯一の例外として、45年前習志野市で条件付採用終了時に保育士が不当解雇された事例がありますが、その時も「解雇無効。条件付採用期間は…未だ未完成な職員の教育期間」の判断がなされました。

・労働基準法、労働契約法にも違反

労働基準法第二十条には「労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。」とありますが、Aさんに解雇予告通知がなされたのは、三十日どころか、わずか1週間前でした。(しかも退職日に支払うべき「解雇予告手当」も18日後にやっと支払い、18日分の賃金をはらっていないので、二重の法律違反)また労働契約法第十六条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあり、裁判でも

① 客観的合理的な基準によるべきこと
② 解雇理由該当事実が解雇をもって臨まなければならないほど質的にまた程度的に重大な事実であるかどうか
③ 使用者側が労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がなされなかったかどうか
④ 指導による改善可能性が見込めないかどうか
⑤ 職場の規律維持に重大な影響を与えたり、業務遂行に重大な支障を与えたかどうか
⑥ 使用者側に落ち度がなかったどうか

などを判断した上で、ほとんどの場合「解雇無効」の判断がなされています。
本件についてはこれに該当するような「解雇をもって臨まなければならないほど質的に重大な事実」「業務遂行に重大な支障を与えた」事実はないどころか、①~⑥のすべての項目で市が正当性を主張できるものは見当たりません。
条件付き採用が延長される時、その理由として人事課長がAさんに「初歩的なミスが多い」「シャツが後ろから出ていた」「始業時間ぎりぎりに来た」など挙げましたが、およそ理由にならないものばかりです。
しかも本人に弁明の機会は一切与えられていません。

・障がい者をクビにするため、こんなことまでやる!習志野市の異常体質
 ①初めから「解雇の結論ありき」で、201512月以降は、解雇の口実を見つけるため、一日中Aさん一挙手一投足を記入した「監視記録」(ネクタイが曲がっていた、5分前に出勤するよう指示したのに3分前に出勤した、などささいなことを他の職員にまで密告させ、Aさんに内緒で記入)を作っていたこと
 ②Aさんが記入し上司の決裁をもらった「実習日誌」をコピーし、その上に「Aさんに内緒で」係長が監視記録=アラさがしメモを殴り書きしていたこと
など
が裁判で明らかになりました。

 2015年12月から2016年2月まで3か月間の総務課勤務の期間、Aさん本人は「大過なく仕事ができた」と自己評価していますが、実はこの間当局はAさんに隠して一日中Aさんの一挙手一投足を記入した「監視メモ」でアラさがしを行い、他の職員に密告までさせて解雇の口実を見つけようとしていた。つまり総務課は、Aさんを解雇に追い込むための「追い出し部屋」だったのです。障がい者を職場に受け入れよう、新人を指導育成しよう、という姿勢はみじんもありません。
 その監視メモは一体どういうふうに作られたのか?総務課にいた3か月間、Aさんはその日にやった業務と、それに対する上司の指導内容を記入し、係長と課長の決裁をもらった公文書「実習日誌」を作成していました。
 本来なら、この実習日誌に①その日にやった業務内容と、②その業務に対し上司から行われた指導をAさんが記入し、その内容が間違いなければ上司が決裁印を押して保管。その内容を以後の業務に活かす、というものです。
 ところが、驚くべきことに当局はその実習日誌をそうっとコピーし、「Aさんに内緒で」係長がその上に赤字や青字で監視記録(アラさがしや密告のメモ)をなぐり書きした「裏帳簿」を作っていた、ということが裁判資料で明らかになりました。
  Aさんが記入し、上司の決裁をもらった正式の公文書「実習日誌」

  それをAさんに内緒でコピーし、アラさがしをなぐり書きした「裏帳簿」

  「障がい者を解雇するためならどんな手段も辞さない」という習志野市の異常体質には、ただただ驚くばかりです。

・上司個人の書いた勤務実績報告書の評価が60点に満たなかったから解雇した、というのには全く法的根拠がないことが判明

 当局は、「上司の勤務実績報告書の評価が60点に満たないので解雇した。法的根拠は後で示す」と言っていましたが、4月7日の裁判で、ついに当局は「法的根拠はない」ことを認めました。今まで言っていたことはウソだったのです。

・Aさん解雇の結論につじつまを合わせる目的で勤務実績報告書を作ったため、ほとんどすべての項目を最低の評価にした。Aさんの人格を全面否定するひどい内容の差別文書。そのひどい内容を知られたくないため「墨塗り」で隠していたが、裁判の中でついに開示せざるを得なくなった。
 
 議会でいくら追及されても頑なに開示を拒否し、「墨塗り」にしていた上司個人による勤務実績報告書を裁判の中でしぶしぶ開示してきました。しかもその中身たるやAさん解雇の結論につじつまを合わせるため、どの項目もほぼ最低評価にしてあり、「勤勉」については「何の役にも立たない」、「信頼性」については「まかせることは全くできない」などAさんの人格を全面否定したひどい内容で、人権侵害もいいところです。「ネクタイが曲がってい」るから「社会人として不適格」、「迷惑な存在」など、障がい者を「迷惑な存在」として排除しようとする、おぞましい差別文書であることも判明しました。このひどい中身について批判されることを恐れ、今までひた隠しにしていたのです

・勤務実績報告書の評価項目も抽象的で意味をなさないものばかり 課長に嫌われれば解雇になるのか?

①その評価の内容も、例えば「仕事の速度」の項目では「極めておそく満足に間に合わない」「仕事がおそく間に合わなかったりたまったりする」「標準程度で命令通り間に合う」など、抽象的で客観性を持たない内容ばかり。課長のサジ加減でどうにでもなるものばかりです。逆に言えば全部公開しても何の問題もないものばかりなのに「墨塗り」で隠していたのです(その後、裁判の中で開示せざるを得なくなりました)。自分たちに都合の悪い事実は隠ぺいし、解雇で未来を奪われた青年の人権は一切顧みようとしない。おそるべき人権無視の市政です。

②しかも評価者は直属の課長1人。だから職場では「課長に気に入られなければ評価が低くされ、クビになる」ということじゃないか、と言われています。

以上の論点を整理すると

①市当局が雇用責任、新採職員への指導責任を放棄し
②今年4月「障害者差別解消法」「改正障害者雇用促進法」施行を前に、「障がい者枠で採用した職員を『能力不足』を理由に」駆け込み解雇した
③「条件付き採用期間終了で解雇」など例がない(1例だけ、45年前習志野市のいわゆる「角田保母事件」では「解雇権濫用」とされ、解雇を撤回)
④「解雇通告は30日前まで」という労働基準法に違反し、わずか1週間前に、遠方に住んでいる母親まで無理矢理呼び出して解雇通告を行った。
⑤裁判でも、「犯罪を犯すなど、解雇をもって臨まなければならないほど質的にまた程度的に重大な事実であるかどうか」「今後とも指導による改善可能性が見込めないか」などを判断した上で、本件のような事件は「解雇権の濫用」とされている
⑥解雇の根拠になったのは担当課長の主観的な評価のみで客観性がない。しかもAさんを解雇に追い込むため、3カ月間「追い出し部屋」で一日中監視して「監視記録」を作成し、解雇の結論につじつまを合わせるため、ほとんどの評価項目で最低の評価にした。しかも「何の役にも立たない」「(仕事を)まかせることは全くできない」などAさんの人権を全面否定したひどい内容。(だからずっと「墨塗り」で隠していた)しかも本人には弁明の機会が一切与えられていない

など習志野市当局には一片の正当性もありません。

○障がい者雇用に対する見識も具体的な配慮も何もなく、千葉労働局から指摘されるので、仕方なく雇用率のつじつまを合わせることしか念頭にない

○労働基準法や労働契約法に違反しても平気、というコンプライアンス(法令順守)意識がない

○障がい者を職場に受け入れる、新人をきちんと指導育成する、などの姿勢が全くない

○青年の未来を奪っておきながら、本人に弁明の機会すら与えず、「追い出し部屋」で監視し、本人には内緒でアラさがし記録をメモした「裏帳簿」までつくって解雇に追い込む、というブラックな手口。解雇の根拠になった「勤務実績報告書」の内容も人権侵害。その内容も裁判所の指摘でしぶしぶ開示したが、それまで墨塗りで、Aさんの知る権利すら奪った隠ぺい体質。

これら習志野市のかかえる深刻な問題点が今回の障がい者差別事件、不当解雇事件を起こした、と考えられます。